山形県の日本海側、広大な平野部の庄内地方には大山という名の町があります。鳥海山・出羽三山に囲まれ、その伏流水と最上川など豊かな水に恵まれており、江戸時代から質・量ともに全国有数の米どころとしても有名でした。東北地方の多くの醸造家が「大山」に学んだといわれています。加藤嘉八郎酒造のある庄内地方にはお酒造りに必要な「米」「水」「人」の全てが揃っています。

地元の美味しいお米で美味しいお酒を造りたいとの願いから、今回のお酒は庄内米の「はえぬき」を主とした山形県産米を使用しています。一般的に食用米は日本酒用の酒米と比べて小粒で硬いため、原料米処理や米麹を造る際に麹カビを上手に繁殖させることが難しく、美味しいお酒を造るには技術を必要とするお米とされてきました。 しかしながら、長年の研究の結果、加藤嘉八郎酒造は「はえぬき」を「突きハゼ」と呼ばれるお酒造りに理想的と云われる麹米の状態に仕上げることができ、より一層良質なお酒がつくられるようになっています。

「十水」とは江戸後期に確立した仕込方法で、十石の米に対して十石の水で仕込むことです。現在の通常の仕込みより1～2割少ない水で仕込む濃厚仕込を、今風にアレンジして醸された古くて新しい特別純米です。高濃度の液体なので発酵不良や腐造を起こすことが懸念される大変難しい手法となっておりますが、年々味わいに磨きをかけ、「大山　特別純米　十水」は2020年に10周年を迎えることができました。 味わいは穏やかで透明感のある吟醸香、濃醇ながらも爽やかでジューシーな酸味、厚みをもって心地よく広がる甘味と旨みです。たっぷりの米の旨味・甘味としっかりした酸がバランスよく調和した、ボリューム感のある膨らみを楽しめます。大山の十水仕込みは丁寧な余韻を持つことが特徴で、濃厚なのにもう一杯飲みたくなる珍しいタイプの日本酒です。

明治5年創業、現在で150年近く続く加藤嘉八郎酒造も、2019年6月18日に発生した山形県沖地震により1万本以上が破損及び汚損する未曾有の災害に見舞われました。しかし、全国各地から支援の手が差し伸べられ、2019年12月には無事新酒を出すことができました。この場をお借りして、感謝の気持ちを載せお届け致します。本当にありがとうございました。